動物の骨折に対して人と同じように外部からのギブス固定が行われることがあります。この方法は、骨折がヒビ割れ程度であったり、骨折部分のズレがほとんどなくて、安静可能な動物の場合に限られます。しかし、完全な骨折で骨折端のズレが大きい場合やバラバラに骨折した場合には、手術による固定が必要になります。人のように患部を安静にできずギブスが動いたり、動物自身でギブスを咬んだりしてしまうことが多く、何回もギブスを交換する必要があります。なにより目的とする固定が得られず肢が変形したまま治ったり、ひどい場合には骨が形成されずに骨折部で動くような、いわゆる偽関節になったりします。そのような理由から動物の骨折には手術による固定法が選択されることか多いのです。
最後に、骨折治療における我々獣医師の最大の目標は、動物における早期の「機能回復」です。早期に骨折した肢を早く使えるようにしてやることにより治りも早め、後遺症の発生率も減少します。かといって治療後の重要な時期には、動物が運動したがってもそれを制限する必要があります。
以下に固定方法の様々な例をレントゲン写真で説明いたします。
尚、ここで示すレントゲン写真は、すべて当院での症例です。
プレートとネジ
このレントゲン写真は大型犬の大腿骨中央における骨折です。ピンやワイヤーでも固定することは可能ですが、この場合大型犬ということで最も強力な固定法であるプレートと6本のネジを用いて固定しました。このような方法では術後早期に肢を使用することができるのが最大の利点です。特に大型犬では長期に歩行できない状態は極力避けなければなりません。
【写真1】術前のレントゲン写真ですが、大腿骨中央(骨幹)の横骨折です。
【写真2】術後のレントゲン写真ですが、骨折部にはほとんどギャップがみられず良好な整復固定ができています。
この犬は小型犬でもトイ犬種でよく見られる前肢(橈骨と尺骨)の骨折です。ソファーや飼い主の腰程度の高さから飛び降りただけで簡単に骨折することがあります。この部分の骨は極端に細く骨折しやすく、他の部位と違って血液の流れが非常に少なくて治りが悪いとされています。また解剖学的にピンの使いにくい部位でもあり、ベストの固定法はプレートとネジを使った方法と言われています。その他の方法としては、複数ピンを使って関節を通さないで刺入固定する方法や後ほど述べる創外固定法が使われます。
【写真3】術前レントゲン写真ですが、2本とも骨折して大きくずれています。
【写真4】術後レントゲン写真ですが、ほぼ正常な位置に整復され、プレートと6本のネジで固定されています。
ピン
これは肘の脱臼です。肘の脱臼はあまり多く見られませんが、外傷性や先天性原因があり、手術せず外部からの整復で成功することがありますが、再脱臼が起りやすい関節でもあります。そのような場合には手術により整復固定され、その方法にはいくつかあります。この犬には整復後に固定する方法として2本のピンを用いました。ピンは、術後2~3週間後に抜きます。
【写真5】脱臼した肘の術前のレントゲン写真です。
【写真6】手術により整復し2本のピンをクロスにして固定されています。
前足3本の指(中手骨)の骨折です。このような骨折はドアに挟まれたり、上から物が肢に落ちて起ることが多いです。一般には親指を除いた4本の内で中央の2指以外の骨折であれば、ギブスで固定しますが、このように中央2本を含めた3本の骨折であれば写真.7のように手術によりピンで固定します。
【写真7】ピンの先端は皮膚の中に埋没されており、骨折が治れば抜去します。
ピンとワイヤー
これは猫の前足の上腕骨(腕の骨)の骨折に対して、1本のピン(髄内ピン)と骨折部周囲の骨に巻いた1本のワイヤーの組み合わせで固定したものです。このような方法は、プレートとネジを用いた固定法に比較して固定具の費用が安価なのが利点です。使い方により他の方法と比較して決して劣るものではありません。
【写真8】1本のピンとワイヤーで固定されており、治ればピンだけ抜去します。
肘から下の前足は橈骨(トウコツ)と尺骨(シャッコツ)という2本の骨があり、肘関節の形成には両方の骨がかかわっています。この犬は、肘関節に近い尺骨だけが折れたものですが、肘関節の脱臼も併発しています。治療は骨折した尺骨を整復固定することによって関節も正常に整復できたものです。固定法は1本のピンとテンションバンド(8の字)ワイヤーおよび骨の周囲に回したワイヤーでされました。
【写真9】術前のレントゲン写真ですが、尺骨の肘関節に近い部分の骨折と関節の脱臼が見られます。
【写真10】ピンとワイヤーを用いた固定により骨折と関節の整復固定がされています。骨折が治ればピンは抜去します。
この例は後足の指の根元の骨(足根骨)1本の関節に近い骨折とその部位にかかわる関節の亜脱臼があります。このような場合にもピンとワイヤーによる固定が可能です。このようにピンとワイヤーの組み合わせは多くの骨折や脱臼に応用可能です。
【写真11】術前のレントゲン写真ですが、関節のギャップにより肢の外側への変形があり、体重負荷ができません。このような場合には手術により早期の機能回復が期待できます。
【写真12】3本のピンとワイヤーにより良好に固定されていますが、骨折が治ればピンとワイヤーは抜去します。
ネジとピン
犬の肘における骨折ですが、このタイプの骨折は、整復・固定術が最も難しい内の一つです。つまり関節面が関わり完璧な整復が必要とされると同時に固定が難しいためです。ギブスでは完全な整復は期待できず、治っても関節の可動範囲は著しく制限されたり、関節が硬くなって動かせなくなることがあります。この例ではピンとネジで固定しています。
【写真13】肘関節を構成している上腕骨の関節の内側の部分(内顆)が骨折して変位しています。
【写真14】骨折した部分は解剖学的にほとんど正常に整復され、ピンとネジで固定されています。レントゲン写真ではワイヤーが見えますが、これは手術の時に関節面をよく見えるように下の骨(尺骨)を切断して骨折した骨の固定が終わってから整復固定したためです。
このレントゲン写真は片側大腿骨の頭(骨頭)の三日月状の先端が分離してしまったものです。このような骨折は、若い動物で成長が進行中の骨に起ります。このような骨折も整復固定するのが最も困難な一つとされています。この犬には手術によりピンとネジで固定しました。
【写真15】右側の大腿骨頭が骨折して、三日月状に分離した部分だけが関節内に残っています。
【写真16】ここでは1本のネジとピンで固定しています。また別のワイヤーと2本のピンは手術中に骨折面を見るために、骨折とは無関係な部分を骨切りしたので、その部分を元に戻して固定するためのものです。
創外固定
これは上腕骨の骨折を1本の髄内ピンとワイヤー、そして外部から皮膚を刺し通して4本のピンが骨折した骨に刺入され、体外で4本のピンを骨セメントで固めてあります。この方法は創外固定法といわれ、非常に有効な固定法の一つです。特に骨が体の外部に飛び出した骨折の場合とか、ひどく骨がバラバラに骨折してしまってつなぎあわせるのが困難な骨折、また日本ではほとんどありませんが銃で撃たれた場合に発生するような骨折などに有効な固定法です。
院長は「犬の慢性骨髄炎の自己海綿骨移植術、表面骨穿刺術および創外固定による1治験例」の論文を学会誌に発表しました。
股関節脱臼整復固定(トグルピン法)
股関節脱臼の治療法にはいくつかありますが、この犬に行われた手術法は、関節臼のほぼ中央に小さな穴を開け、そこに人工靭帯を付けたアンカーとなる捻りピン(トグルピン)を通して関節を整復固定しています。
【写真18】右股関節の前背側脱臼です。
【写真19】脱臼した関節は整復固定されています。関節内側に捻ったトグルピンが見えますが、レントゲン写真には映らない人工の靭帯によって関節が固定されています。